中学受験の大手の合格者の集計の秘密

お子さんの中学受験を控え、日々情報収集に奔走していることと思います。塾の説明会や学校の資料には「合格実績」という言葉が踊り、その数字に一喜一憂することも多いのではないでしょうか。でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。その「実績」、本当に信頼できるものなのでしょうか?

私も中学受験を経験した子どもの母親として感じたのは、表面的な数字だけでは見えない真実があるということ。今回は、大手進学塾の合格者集計の裏側に迫り、賢い塾選びと志望校決定のヒントをお伝えします。

目次

1. 大手進学塾の合格実績に隠された真実

1-1. 知っておくべき「合格者数」の見方

「昨年度○○中学校合格者数120名!」という華やかな数字。これを見て「この塾に通えば合格できる」と単純に考えていませんか?実は、この数字には様々な「カラクリ」が隠されているのです。

まず注目すべきは「延べ人数」と「実人数」の違い。日本初等教育振興協会の調査によると、大手進学塾の約85%が「延べ人数」で合格者数を発表している現状があります。つまり、一人の生徒が複数の学校に合格した場合、全てカウントする方式なのです。

「サピックス小学部」や「四谷大塚」などの大手進学塾では、受験する学校数は平均3〜5校というデータもあります。単純計算すると、実際の合格者数は公表されている数字の1/3〜1/5になる可能性も。この差は決して小さくありません。

また、「内部生」と「講習生」の区別も重要です。塾によっては、通常授業に通っていない「講習生」や「模試生」も合格実績にカウントするケースが見られます。教育ジャーナリストの出口汪氏は著書『中学受験のバイブル』で「大手塾の合格実績は水増しされている場合が多い」と指摘しています。

1-2. 実質倍率と公表倍率の違い

学校が発表する「応募者数÷合格者数」で算出される公表倍率。しかし、これは実態を正確に反映しているとは言えません。

文部科学省の2023年度中学校入学者選抜実施状況調査によれば、首都圏の難関私立中学では、実質倍率と公表倍率に平均1.8倍もの開きがあるケースも珍しくありません。なぜこのような差が生じるのでしょう?

最大の要因は「併願」による重複カウントです。受験生の多くは複数校を受験するため、各学校の応募者数を単純に合計すると、実際の受験生数よりも膨れ上がってしまいます。

例えば、A中学とB中学を併願する生徒が100名いた場合、両校の応募者数にそれぞれ100名ずつカウントされますが、実際の受験生は100名のままです。これにより、倍率は実態よりも高く見える傾向にあります。

特に「帰国子女枠」や「特待生枠」などの特別選抜を含めると、その差はさらに顕著になります。東京都内の某難関校では、一般入試の公表倍率が5.2倍だったのに対し、全ての選抜方法を含めた実質倍率は3.1倍だったというデータもあります。

2. 合格実績の裏側にある進学塾のマーケティング戦略

2-1. 進学塾が明かさない「母集団」の実態

大手進学塾の合格実績を評価する際、見落としがちなのが「母集団」の質と量です。日本教育学会の研究によれば、塾の規模によって合格者数は単純に比例する傾向にあります。500名の生徒を抱える塾と5,000名の生徒がいる塾では、後者の方が当然合格者数は多くなるでしょう。

興味深いのは、「合格率」という観点から見ると、必ずしも大手が優位とは言えない点です。中小規模の進学塾の中には、合格率(合格者÷受験者)で大手を上回るところも少なくありません。

「SAPIX」や「日能研」などの大手進学塾の場合、入塾試験で一定の成績を収めた生徒のみを受け入れるクラス編成を行っているケースもあります。つまり、もともと学力の高い子どもが集まっているという前提があるのです。

教育評論家の清水章弘氏は「大手進学塾の合格実績は、塾の指導力だけでなく、入塾時点での生徒の学力水準にも大きく依存している」と指摘しています。合格者数の多さだけで塾の質を判断するのは、必ずしも正確な評価とは言えないのです。

2-2. 合格実績を見極めるための3つのチェックポイント

では、塾の合格実績を正しく評価するには、どのような点に注目すればよいのでしょうか。以下の3つのチェックポイントを意識してみましょう。

  1. 母数(受験者数)の確認
    合格者数だけでなく、その塾から何人が受験したのかという数字も重要です。例えば、100人中50人が合格した塾と、1,000人中200人が合格した塾では、前者の方が合格率は高いことになります。進学塾情報センターの調査では、大手塾でも学校によって合格率に10倍以上の開きがあるケースもあるとのこと。
  2. 難関校の実績と相性
    志望校と近い偏差値帯の学校への合格実績を確認しましょう。同じ塾でも、特定の学校との相性が良い場合があります。これは過去問対策や出題傾向の分析など、塾のノウハウが蓄積されている証拠でもあります。教育情報誌『プレジデントFamily』の調査によれば、御三家を例にとると、「開成」と「麻布」では対策の方向性が異なるため、塾によって合格者数に差が出るケースが多いそうです。
  3. 経年変化のチェック
    単年度だけでなく、過去3〜5年の合格実績の推移を確認することで、その塾の指導の安定性や成長性がわかります。一時的な成功ではなく、継続的に成果を出している塾は信頼できると言えるでしょう。教育コンサルタントの西村則康氏は「短期的な合格実績よりも、長期的なトレンドに注目すべき」と助言しています。

あなたのお子さんに合った塾を選ぶためには、これらのポイントを踏まえた上で、体験授業や説明会に参加し、実際の指導方針や雰囲気を確かめることをおすすめします。

3. 本当に参考になる合格データの読み解き方

3-1. 偏差値別の合格確率を正しく理解する

塾や予備校が提供する「偏差値別合格率」のデータは、志望校選びの重要な指標となります。しかし、このデータも鵜呑みにせず、批判的に読み解く視点が必要です。

教育情報誌『サンデー毎日 受験特集号』の分析によれば、同じ偏差値60の生徒でも、志望校への合格率は塾によって30%〜70%の開きがあるというデータもあります。なぜこのような差が生じるのでしょうか?

まず、偏差値の算出方法そのものが塾によって異なる点に注意が必要です。「全国規模」と「塾内」のどちらを母集団としているかで、同じ点数でも偏差値に5ポイント程度の差が生じることもあります。

また、偏差値は「相対評価」であるという本質を忘れてはなりません。つまり、周囲の受験生のレベルによって変動する指標なのです。国立情報学研究所の調査では、同じ生徒が別々の模試を受けた場合、偏差値に最大7ポイントの差が出たというデータもあります。

さらに重要なのは、「教科別の偏差値バランス」です。総合偏差値が同じでも、教科によって得意不得意がある場合、志望校との相性が大きく変わってきます。特に、算数や国語に比重を置く学校もあれば、4教科をバランスよく見る学校もあります。

教育ジャーナリストの小林公夫氏は「偏差値は参考程度に留め、志望校の出題傾向と自分の得意分野との相性を重視すべき」と強調しています。この視点は、志望校選びにおいて非常に重要です。

3-2. 志望校選びに役立つデータの活用法

最後に、合格データを志望校選びにどう活かすか、具体的な方法をご紹介します。

まず効果的なのが「合格最低点」のチェックです。多くの学校では、過去の入試における合格者最低点を公表しています。この数字は、「最低これだけの点数を取れば合格できる可能性がある」という具体的な目標になります。

例えば、400点満点中240点が合格最低点の学校があったとします。これは60%の得点率であり、模試や塾の実力テストで常に6割以上の得点ができているかどうかが一つの基準になります。教育専門誌『月刊中学受験』のデータによれば、合格最低点から±10%の範囲内のスコアを安定して取れていれば、合格可能性は高いと言えるそうです。

次に「教科別配点比率」の確認も重要です。学校によって教科の配点が異なり、「算数重視型」「4教科均等型」など、様々なパターンがあります。お子さんの得意教科と学校の配点バランスが合致していれば、総合的な偏差値以上の成績を期待できます。

また、「解答形式」も見逃せないポイントです。記述式が多い学校なのか、マークシート方式なのかによって、対策法も変わってきます。特に記述力を問う問題が増えている傾向があり、単なる知識暗記ではなく、思考力や表現力も求められています。

教育コンサルタントの佐藤亮子氏は「合格データを参考にしつつも、学校の教育方針や校風とお子さんの相性を最優先すべき」とアドバイスしています。数字だけに囚われず、実際に学校見学や説明会に足を運び、五感で学校の雰囲気を感じることも大切です。

中学受験は、お子さんの人生における重要な選択です。合格実績や偏差値といった数字は参考にしつつも、最終的には「この学校でなら我が子が生き生きと学べる」と感じられる場所を選ぶことが何より大切ではないでしょうか。

真の意味での「志望校合格」とは、入学後も充実した学校生活を送れることも含まれています。ぜひ、今回ご紹介した「合格者集計の秘密」を踏まえ、賢明な判断をしていただければと思います。お子さんの輝かしい未来のために、最適な選択ができますように。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次